Macro Analysis

ビットコインは真の
インフレヘッジになるのか?

「デジタルゴールド」論の真偽を問う。
データが示す相関関係のパラドックスと、法定通貨の未来。

A
Analysis Team

法定通貨の価値が希釈され続ける現代において、「資産を何で持つか」はもはや投資家だけの問題ではありません。それは生活防衛の要です。長年、その最適解は不動産や金(ゴールド)とされてきました。しかし今、ビットコインがその座を奪おうとしています。

2020年代前半、私たちは歴史的なインフレを経験しました。その時、ビットコインは期待通りに動いたでしょうか? 答えは「Yes」でもあり、「No」でもあります。この複雑な挙動を解き明かし、2025年以降のインフレ時代におけるビットコインの真価を問います。

インフレヘッジの定義を再考する

そもそもインフレヘッジとは何でしょうか。教科書的な定義では、「通貨の購買力が低下(モノの値段が上昇)する局面において、その価値を維持、あるいは上昇させる資産」を指します。

しかし、ここにはタイムラグの問題があります。CPI(消費者物価指数)が発表された瞬間に価格が上がる資産など存在しません。重要なのは、インフレの原因となる「通貨供給量の拡大(マネタリーベースの増加)」に対して、長期的にどう反応するかです。

パラドックスの正体

ビットコインは短期的には流動性の高い「リスク資産(ハイテク株)」のような動きを見せますが、4年以上の長期的サイクルで見ると、通貨発行量に連動する「実物資産」としての性質を強く帯びてきます。

データで見る相関関係の変化

2022年の事例を振り返りましょう。米国のインフレ率が9%を超えた際、FRB(連邦準備制度理事会)は急速な利上げを行いました。この時、ビットコイン価格は大きく下落しました。「インフレヘッジとして機能していないじゃないか」という批判が噴出した瞬間です。

しかし、これは「流動性ショック」によるものでした。金利が上がれば、借金をして投資していた人々は返済のために資産を売らざるを得ません。最も流動性が高く、24時間売買できるビットコインが真っ先に換金されたのです。

ところが、利上げ局面が落ち着き、再び政府の債務問題や銀行不安が表面化するとどうなったでしょうか? ビットコインは再び上昇基調に戻りました。これは、市場がビットコインを「中央銀行の政策ミスに対する保険」として認識し始めた証左です。

「質の良い貨幣」の条件

経済学者ハイエクらが提唱したような「良貨」の条件を、ビットコインは驚くほど高いレベルで満たしています。

1. 耐久性 (Durability)

デジタルデータは劣化しません。金ですら摩耗しますが、ビットコインは100年後も1satoshiは1satoshiのままです。

2. 分割可能性 (Divisibility)

1BTCは1億satsに分割可能。金の延べ棒をコーヒー1杯分削り取ることは不可能ですが、ビットコインなら瞬時に可能です。

3. 運搬性 (Portability)

物理的な重さがゼロであること。これはグローバル経済において、金にはない圧倒的な優位性です。

4. 希少性 (Scarcity)

ここが決定打です。発行上限2,100万枚というルールは、誰の都合によっても変更されません。

新興国で見られる「実需」の姿

先進国に住んでいると実感しにくいかもしれませんが、トルコ、アルゼンチン、ナイジェリアといった、自国通貨のインフレ率が年間数十〜数百%に達する国々を見てください。

そこでは、ビットコインは「投機」ではなく、「生存のための避難所」として機能しています。自国通貨を持っているだけで毎月資産が目減りしていく状況下では、たとえビットコインが短期間で10%下落しようとも、長期的にははるかに安全な逃避先なのです。

これら「グローバルサウス」でのビットコイン採用(アダプション)の加速こそが、ビットコインが真のインフレヘッジ資産へと進化しつつある何よりの証拠と言えるでしょう。


結論:まだ完成形ではないが、最も有力な候補

ビットコインはまだ「完成された」安定資産ではありません。価格発見機能が働いている最中であり、ボラティリティは続きます。

しかし、世界中の中央銀行が法定通貨を刷り続け、各国の債務が膨張し続けるマクロ経済環境において、特定の国家や管理者に依存しない「数学的な規律」を持つ資産の価値は、長期的には高まらざるを得ない──それが、今多くの機関投資家がビットコインに注目し始めた論理的帰結なのです。

Next: ポートフォリオへの組み込み方

理論はわかった。では、具体的にどう買えばいいのか?

戦略を読む →